重みのないそれを人差し指と親指の指先で摘み、蛍光灯の淡い光に透かす。
小さく、持ってる感覚すらないそれは、そよ風でも吹いたら飛ばされそうな羽毛だ。
フェザリアンの羽根は髪の毛と同じようなもので何かの拍子に抜けることもある。
モニカの羽根も、大きさは違えど同様だ。
寝ているモニカの羽根を撫でたら自然と抜けて、静電気のせいなのか指先にくっついた小さな羽毛をこうして仰向けのまま指で弄ぶ。
柔らかさを確かめるように指で潰したり、手を揺らして僅かな毛先の振動を眺めたり。
そうやって光が透けてほぼ透明に見える羽毛を、見つめる。
人差し指は人間の部位の中でもそれなりに敏感らしいが、こんなに小さく柔らかいものだと何を持っているかの感覚すらない。
その集合である、モニカの背中の羽根の肌触りは微塵も感じられないのが不思議だった。
この羽毛も確かにモニカのものなのに。
モニカの羽根はほのかに暖かく、付け根から羽先へ撫でると
細かい柔らかな羽毛が高級なベルベット生地のように手のひらを気持ちよく刺激する。
羽根に指を突っ込むように少し指に力を入れると、軽い弾力のある小さな骨と
より柔らかいフワフワした羽毛が指先をくすぐり、それもまた羽根表面より熱くて心地いい。
そうやって思い返しているとまた羽根を触りたくなったが、モニカは羽根も性感帯の一部みたいで触ろうとすると嫌がる。
いや、本気で嫌がってるわけではないとは思うけど、とにかく抵抗してくる。
しかも今モニカはまだ眠りの中のわけで、仕方なく羽根ではなく手の中にある羽毛を弄ぶ。
羽毛の根元をクルッと回すように指を動かすと、力を入れすぎたのか羽毛が指から離れた。
フワッと舞って隣のモニカの肩に舞い落ちる。
それを目で追っていたら、モニカの視線がかち合った。
……いつの間にやら起きていたらしい。
俺が起こしたのか、それともそろそろ日が登る頃だから自然と目覚めたのか。
起こしてごめん、と目で伝えると、自然と目が覚めただけよ、みたいな視線を返された。
まさしくアイコンタクト。
しかしまだ眠たいのか、けだるいのか、モニカは上体を起こす事はなく、体をこっちに向けたままジッと俺を見つめていた。
いつから見られていたのか分からないが、おそらく俺がモニカの羽毛を
蛍光灯で透かしている時には起きていたのだろう。
いつも羽を触ると羞恥からか怒られるし、もしかしたら怒っているのかもしれないと手のひらでモニカの頬を撫でた。
すると、トロンと表情が柔らかくなる。
寝起きは気を張っていないためか、モニカは朝起きてすぐは割と俺のする事に寛容だ。
キスだとか、抱き締めるだとか、時々胸元に抱き付いたりだとか、
そんな人前でするとナイフを飛ばすような行為でも、くすぐったそうに笑って時々頭まで撫でてくれる。
普段のツンが大きければ大きいほど、デレの威力はでかいってのは真理だと思う。
モニカの頬を撫でていた指で、細く光に反射する髪を可愛らしい耳にかけるように滑らせて、
白い首筋を辿り、先ほど肩に落ちた羽毛のところへ到着する。
それをもう一度摘めば、寝起きは寛容なモニカが珍しくムッとした表情になった。
もしかして爪で肩を引っ掻いてしまっただろうか、でもつい昨日爪を切ったばかりだし。
モニカの怒りの理由が分からずに一時停止した俺に、少しラミィを思い出させる
のんびりした口調でモニカが尋ねてきた。
「……なんで、ぬけたのをさわるの？」
「え？」
幼い口調で、不服そうにわずかに口を尖らせ、呟く。
おそらく俺に抗議しているつもりじゃないんだと思う。
ただ、思っている事をそのまま口にしてしまっているだけで。
「となりにいるから、はねさわっていいのに」
誘ってるわけじゃない。
煽っているわけじゃない。
俺だってそれぐらい分かるし、我慢だってできる。
だってそろそろ日が登る。朝だ。
あともう少しでヴォルトーンの鶏も鳴くだろう。
でも。
「……それじゃあ、遠慮なく触る」
「うん………………え？」
俺の返事でハテナを浮かべたモニカが状況を把握するより早く、モニカを抱き締めて首筋にキスを落として羽根を撫でた。
夜明け前のベルベットは、いつもより熱かった。
PR
